山口県阿武町『給付金4630万円誤送金事件』の罪と罰~詐欺か窃盗か不当利得返還請求か?

2022年4月8日、山口県阿武(あぶ)町で、給付金4630万円を誤入金する事態が発生しました。

今回は、この誤入金の事案に関する罪と罰を考えていきます。

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◆給付金4630万円の誤送金事件

まず今回の給付金とは、新型コロナウイルス対策の給付金です。

住民税非課税世帯などへ、10万円ずつ振り込まれているものですね。

この給付金の是非は置くとして、山口県阿武町では463世帯が対象となりました。

10万円×463世帯=4630万円 です。

しかし、町の職員のミスにより、名簿の一番上にあった世帯に対して、4630万円全額を振り込んでしまったのです。

◆世帯主は返還を拒否

ミスに気が付いた町の担当者は、誤入金があった世帯主に対し、返還を請求しています。

当初は応じる意向であった世帯主ですが、その後、態度を一変。

お金は口座から動かし、戻せない。罪は償う

と、返還を拒否してきたのです。

◆世帯主の罪と罰

阿武町は今後、刑事告訴を検討していると報道されています。

世帯主はどんな罪に問われるのでしょうか?

①詐欺罪

銀行の誤振込で入金されたお金を、そうと知りながら引き出すと、刑法第246条の詐欺罪が成立します。

(詐欺)第246条
1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

「銀行員をだました」という理屈ですね。

しかし今回の事案は、銀行が手続きミスをした訳ではありません。

詐欺罪を問うのは難しいのではないでしょうか?

②窃盗罪

次に考えられるのが、刑法第235条の窃盗罪です。

(窃盗)第235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

誤振込の事案で窃盗を問われる理屈は、「無断で金銭に対する銀行の占有を奪った」というものです。

しかしこれも、今回の事案では、銀行のお金を奪った訳ではありません。

町のお金ではありますが、世帯主は窃取(こっそり盗み取ること)はしていません。

窃盗罪の成立も難しいと思います。

③不当利得返還請求

今回のケースはこれでしょう。

民法第703条の不当利得返還請求です。

(不当利得の返還義務)第703条
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

「その利益の存する限度において」というのは、平たく言うと「残っているだけでいいよ」という意味です。

しかしこれは、不当な利得であることを知らなかった場合の話なので、今回の事案には当てはまりません。

民法上、世帯主は町に対して、4630万円を返す義務が生じるでしょう。

しかしこれは、民法上の話です。

刑法があてはまらないとすると、世帯主は犯罪者ではありません。

◆過去の事例

過去の事例としては、2018年に大阪府摂津(せっつ)市で発生した還付金誤入金があります。

この事例では、摂津市は市内に住む男性に、住民税の還付金を約1500万円を過大に振り込んでしまいました。

男性側は、

市側の誤り。使ってしまったので、返す義務はない

と、返還を拒否。

摂津市は不当利得返還請求訴訟を起こし、大阪地裁は2020年10月に、男性に全額の返還を命じました。

判決は確定しましたが、あくまで民事上の話。

摂津市によると、男性側からの返還はないということです。

◆まとめ

阿武町の事案で、世帯主は「罪は償う」と発言しているそうです。

償うべき「罪」とはいったい何なのか?

今後の進展に注目したいと思います。

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